生産管理システムのクラウド化を検討
モリテック社の事業は、非常にユニークだ。金型を使って大量生産する一般的なゴム製品とは異なり、ゴムのブロックから職人が手加工や機械加工で削り出し、研究開発などで使われる一点物の部品を製造する。
この「小ロット多品種・オーダーメイド」という業態では、決まった商品マスタが存在しない。都度、図面に合わせて作るため、通常の生産管理のパッケージシステムで展開されるような型番管理ができない。
そのため、約30年前から独自のオーダーメイド生産管理システムを構築・運用してきた。しかし30年アップデートを続けた「秘伝のタレ」のような長年の運用でシステムは複雑化し、開発言語(Magic)の特殊性から扱える技術者が減少。担当者の高齢化もあり、システムが「ブラックボックス化」するリスクが年々高まっていた。
モリテック社情報システム管理室の堤様は「将来的なサポートへの不安から、新たなベンダーを探す必要がありました。クラウド化は必須条件と考えていましたが、私たちの特殊な業態に対応できるパートナーを見つけることが急務でした」と当時を振り返ります。
情報システム管理室
堤 勝弘 様
他社からはパッケージカスタマイズ主体の3億円の見積もり
大手ベンダーを中心に数社へ相談を持ちかけたが、返ってきた答えは厳しいものだった。「一般的な生産管理パッケージは商品マスタがあることが前提です。モリテック様の業務に合わせるには、パッケージの大幅な改造が必要です」といった内容。
また、旧システムは拠点ごとのサーバーで運用されており、全社のデータ同期が「夜間バッチ処理」であったため、タイムラグが発生する課題がありました。今回のリプレイスにあたり、モリテック様は「次世代を見据えた完全クラウド化」と「リアルタイムなデータ共有」を必須条件として掲げた。
「当時は各拠点のデータ同期を夜間に行っており、リアルタイムではありませんでした。どうしてもやるならクラウド化したかった。まだ世の中でクラウドが主流になる前でしたが、データベースを統合し、どこからでも同じ情報が見られる環境を目指しました」と同じく情報システム管理室
の福田様は語ります。
そんな折に出会ったのが、SAAPを活用した開発提案だった。システムに業務を合わせる既存のパッケージ改造ではなく、SAAP(PaaS)の機能を活用して業務にシステムを合わせる「スクラッチ開発」のアプローチだ。
「大手ベンダーを中心に提案を数社受けましたが、見積もりが3億円と非常に高額でした。『向こうが持っているパッケージをうちに合うように改造する』という提案ばかりで、それをすると初期費用だけでなく、その後の保守も大変なことになり、現実的ではありませんでした」
情報システム管理室
福田 晋 様
SAAPを活用した開発であれば導入コストを3分の1に削減できる
驚くべきはそのコストだった。他社数社からの見積もり金額の平均が3億円に対し、SAAPでの提案は約1億円。 Azure上で既に確立された技術部品を組み合わせることで、フルスクラッチの柔軟性を持ちながら開発工数を劇的に圧縮できる。これが「マイナス2億円」のカラクリである。
さらに「現場のスピードを落とさない」入力インターフェースの再現性もSAAP導入の決め手になった。
実は導入の際にコスト以上に重視されたのが「現場の使い勝手」だった。旧システムは30年かけて現場に馴染んでおり、ITに不慣れな職人でも直感的に、かつ高速に入力できる仕様。 新しいシステムでも、マウス無しで操作できるインターフェイスに改造したり、過去の入力履歴(材料、サイズ等)を呼び出せる機能を実装したりと入力作業をさらに軽減することにこだわった。
「新しいシステムになったから入力が面倒になった」という事態を避け、現場の生産性を維持できると確信できた点が、最終的な採用の決め手となった。

SAAPはパッケージ製品ではなく、システムを構築するための「開発プラットフォーム」である。そのため、パッケージの制約を受けずに、必要な機能をゼロベース(スクラッチ)に近い感覚で、かつ高速に構築することが可能になる。
結果として、他社見積もりの約3分の1である「約1億円」での導入が可能と試算され、コスト面での課題をクリア。
「自分たちの業務に合わせて一から作る自由度と、汎用性のあるデータベースを使えるという点で、他社では無理だと判断しました。他社が3億円のところ、A-ZiPさんの見積もりはその3分の1程度。SAAPという基盤があったからこそ、このコストダウンが実現できました」
「ノーコードを使ったプロトタイピング」動くシステムで要件定義と仕様確認
また開発プロセスにおいて大きな効果を発揮したのが、SAAPの特性を活かした「プロトタイピング」でした。 紙の仕様書だけで議論するのではなく、実際に動く画面を早い段階で作成し、現場のユーザー(営業や製造担当)に見せることで、認識のズレを解消。
これにより、「出来上がってから『違う』と言われるリスク」を最小限に抑え、現場の潜在的な要望を引き出すことにも成功した。
「動く画面」ですり合わせることで、手戻りを極小化。要件定義の段階では、ドキュメントだけで会話するのではなく、早い段階でSAAP上で作成した「動くプロトタイプ画面」を共有する手法が採られた。
「ボタンの配置はこっちの方がいい」「この項目は必須ではない」など、実際の画面を見ながら現場ユーザーと具体的なフィードバックを交換。 これによりシステム開発によくある「完成してから『こんなはずじゃなかった』と発覚するリスク」を未然に防ぎ、スムーズな導入を実現した。
「システム以外の人間、つまり営業や現場の人たちに『動くもの』を見せられるのが一番大きかったですね。口頭や紙では伝わらない部分も、画面を操作して見せることで『あ、ここまでできるなら、あの作業もやりたい』といった前向きな要望が出てきました。結果的に、当初の想定を上回る120点のシステムになったと思います」
「小ロット・多品種・オーダーメイド」特殊な業態にも合わせた複雑なシステムにもSAAPで対応
モリテック社のビジネスは、決まった商品を売るのではなく、図面に合わせてゴムの塊から削り出すオーダーメイド加工である。そのため「決まった商品マスター」が存在せず、受注のたびに自由入力が必要になる特殊な業務フローを持っている。 パッケージソフトでは対応不可能なこの複雑な要件もSAAPの柔軟性によって実装された。またシステムへの入力作業を極限まで軽減した。開発担当のA-ZiP大川は以下のように語る。
「特に1日2000伝票打つ受注入力はカーソルの移動順も徹底しました。マウスカーソル不要でキーボードのみで完結できる入力作業。配送するなら出荷先が先に選べた方がいい。そもそもお客さんが取りに来てくれるなら出荷先は入力もできない。検査の内容が分かった時点で出荷時刻自動でセットできる仕様などある程度情報が決まったら自動で設定できる項目。数え上げればキリがないほど見えないこだわりの連続で入力作業を極限まで削っています。」
株式会社A-ZiP システム開発3課 課長
大川 翔基
現在は、32インチのデュアルモニター(4K相当)に複数の検索・入力画面を並べ、膨大な情報を処理する「管制室」のような高度な業務環境が構築されている。
「うちは在庫を持たないし、毎回図面に合わせて作るため、一般的な商品マスターが作れません。パッケージソフトではどうしても対応できない部分でした。SAAPで構築した新システムでは、フリー入力でありながら過去の類似データを検索・引用できるなど、我々の特殊な『職人技』のような業務フローをシステムに落とし込むことができました」
ランニングコストも5年間で約5,000万円のコストダウン効果を算出
導入コストの削減だけでなく、運用コストにおいても劇的な削減効果が生まれている。 旧システムでは、罫線が入った高価な「専用帳票(プレプリント用紙)」を使用していましたが、新システムでは汎用的なA4用紙に罫線ごと印刷する仕組みに変更。月間数万枚に及ぶ印刷コストが削減され、年間で約1,000万円、5年間で約5,000万円ものコストダウンにつながっているという。
「以前は専用の帳票を使っていて、印刷コストだけで年間1,000万円単位かかっていました。新システムでは汎用のコピー用紙に罫線ごと印刷できるようにしたため、その費用がほぼゼロになりました。5年間で考えれば5,000万円の削減です。毎日数千枚印刷する業務なので、この効果は非常に大きいです」
5年ほどSAAPを活用してみて
モリテック社は、一点もののゴム製品を小ロットで加工する独自の事業特性から、約30年前よりオーダーメイドの生産管理システムを運用してきた。新システムは、クラウド化によるデータの一元化やリモートサポートの迅速化、専用帳票の廃止による年間最大1000万円規模の運用コスト削減など、多岐にわたる業務改善をもたらした。
さらに、データベースのオープン化は、情報システム部門によるデータ活用やツールの内製化を促進。開発初期段階での「見える化」は手戻りを防ぎ、事業環境の変化に柔軟に対応できる拡張性の高いシステムは、まさに「会社と共に成長する」基盤となっている。SAAPの能力とモリテック社の的確な投資判断能力という両社の強固な連携によってシステムが今日も稼働している。




